N1 — UE ⇔ AMF(NAS 参照点)¶
学習目標¶
このページを読み終えると、次のことができるようになります。
- N1がUEとAMFを結ぶ論理インターフェースであることを説明できる。
- N1が運ぶProtocol(NAS)と、その2つのサブレイヤ(5GMM / 5GSM)を区別できる。
- 「N1は独自の物理リンクを持たず、N2(NGAP)にカプセル化されて相乗りする」仕組みを図で説明できる。
- Registrationなどの手続きでN1が果たす役割を説明できる。
- 4G(EPC)のNAS(UE⇔MME)との対応関係を説明できる。
前提知識¶
先に以下を理解しておくとスムーズです。
- NAS(Non-Access Stratum)の位置づけ → Protocol辞典
- NGAP と SBA の基礎 → Protocol辞典 / Interface辞典
- N1を終端するNF → AMF
- 対になる下位IF → N2
Why — なぜ必要なのか¶
スマホ(UE)は「ネットワークに登録したい」「セッションを張りたい」といった要求そのものを、途中の基地局に中身を覗かれず、コアネットワークの担当者(AMF)に直接届けたいはずです。無線区間の通信品質やハンドオーバといった「無線の都合」とは切り離し、端末とコアだけが理解する会話の道が必要です。
この「UEとコア(AMF)の間だけで完結する会話路」がN1です。基地局(gNB)は無線の中継役に徹し、N1で運ばれるNASの中身(登録要求や認証応答)を原則そのまま透過します。N1が無ければ、UEはコアと直接対話できず、登録も認証もセッション確立も始められません。
Overview — 概要¶
N1は UE ⇔ AMF を結ぶ論理インターフェースで、上を流れるProtocolは NAS(Non-Access Stratum) です。NASは目的別に2つのサブレイヤに分かれます。
| サブレイヤ | 正式名 | 役割 | 主なメッセージ例 |
|---|---|---|---|
| 5GMM | 5G Mobility Management | 登録・認証・接続・モビリティ管理 | Registration Request, Authentication Request |
| 5GSM | 5G Session Management | PDUセッションの確立・変更・解放 | PDU Session Establishment Request |
重要な特徴は、N1が独自の物理リンクを持たないことです。N1のNASメッセージは、UE⇔gNB間は無線(RRC)で、gNB⇔AMF間はN2(NGAP)の中にNAS-PDUとして詰められて運ばれます。
Basic Concept — 初心者向け説明¶
N1を手紙のやり取りに例えます。
あなた(UE)が役所(AMF)に申請書(NASメッセージ)を送るとします。あなたは封筒の中身(申請内容)を、途中の郵便局(gNB)に読まれず役所に届けたい。郵便局は封筒を運ぶだけで、中身は開けません。
- 手紙の中身が N1(NAS)= UEと役所だけが読む。
- 手紙を運ぶ郵便網が N2 や無線 = 中身には関与しない配送路。
つまりN1は「専用の道路」ではなく「郵便局(N2)のトラックに相乗りする封筒」です。この「N1はN2に相乗りする」という点が、5GCを理解するうえで最初の関門です。
Protocol / Transport¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Protocol | NAS(Non-Access Stratum)/サブレイヤ 5GMM・5GSM |
| 下位Transport | 独自リンクなし(論理IF)。UE⇔gNBは無線RRC、gNB⇔AMFはN2(NGAP)のNAS-PDUとしてカプセル化 |
| ポート | N1固有のポートは無し(N2=SCTP 38412 に相乗り) |
| セキュリティ | NAS暗号化・完全性保護。NAS securityはUE⇔AMFで終端(gNBは関与しない) |
| 特徴 | 論理インターフェース。中身はUEとAMFのみが解釈。gNBは透過リレー |
N1は「論理」インターフェース
N1という物理ケーブルは存在しません。N1は「UEとAMFの間に成立するNASの会話」という論理的な参照点です。実際のビットはN2(NGAP)と無線(RRC)に乗って運ばれます。
プロトコルスタック(NAS は区間ごとに別の器へ相乗り)¶
同じ NAS メッセージが、区間によって違う下位プロトコルに内包されて運ばれます。UE⇔gNB は無線(RRC)、gNB⇔AMF は N2(NGAP) の NAS-PDU です。gNB は NAS の中身を開かず、そのまま載せ替えるだけ(透過リレー)です。
flowchart LR
subgraph UEside["UE"]
direction TB
U_NAS["NAS
(5GMM / 5GSM)"]
U_RRC["RRC"]
U_L2["PDCP/RLC/MAC/PHY
(無線)"]
U_NAS --- U_RRC --- U_L2
end
subgraph gNBside["gNB(透過リレー:NAS中身は開かない)"]
direction TB
G_TOP["(NASを載せ替えるだけ)"]
G_RRC["RRC ⇔ NGAP
変換"]
G_TOP --- G_RRC
end
subgraph AMFside["AMF"]
direction TB
A_NAS["NAS
(5GMM / 5GSM)"]
A_NGAP["NGAP(NAS-PDU で内包)"]
A_SCTP["SCTP / IP"]
A_NAS --- A_NGAP --- A_SCTP
end
U_L2 == "Uu(無線)" === G_RRC
G_RRC == "N2(NGAP / SCTP:38412)" === A_SCTP
U_NAS -. "N1:論理的に同じNASが通じる" .- A_NAS
classDef nas fill:#eef,stroke:#66f,stroke-width:2px;
class U_NAS,A_NAS nas;
図の読み方
青枠の NAS は UE と AMF の両端にだけ存在し(=N1 の論理的な会話)、点線がその「論理的に同じ NAS が通じる」関係を示します。実体のビットは、UE⇔gNB は RRC(さらに PDCP/RLC/MAC/PHY の無線レイヤ)に、gNB⇔AMF は NGAP の NAS-PDU(SCTP:38412 上)に内包されて運ばれます。gNB は NAS の中身を解釈せず、RRC と NGAP の間で載せ替えるだけです。だから NAS セキュリティ(暗号化・完全性)も UE⇔AMF で終端し、gNB は関与しません。
Architecture¶
N1(NAS)が誰と誰を結び、下位のどのIFに相乗りするかを示します。
flowchart LR
UE(("UE"))
gNB["gNB (基地局)"]
AMF["AMF"]
UE == "N1 (NAS) =論理的な会話" ==> AMF
UE -- "無線 RRC が運搬" --> gNB
gNB -- "N2 (NGAP) の NAS-PDU が運搬" --> AMF
classDef logical fill:#eef,stroke:#66f,stroke-width:2px;
図の読み方: 太い線(==>)がN1の論理的な会話(UE⇔AMFで意味が通じる)。細い線が実際の運搬経路です。NASの中身はgNBで開かれず、無線とN2を経由してAMFまで透過されます。
利用Procedure¶
N1(NAS)は、UEとコアが直接対話するほぼ全ての手続きで使われます。
- Registration(登録): Registration Request/Accept/Complete を運ぶ。UEがネットワークに登録する起点。
- Authentication(認証): Authentication Request/Response、Security Mode Command/Complete を運ぶ。
- Service Request: アイドル状態のUEが接続を再確立する際のNAS要求。
- PDU Session Establishment(5GSM): セッション確立要求を運ぶ(AMFがSMFへリレー)。
Registrationにおける役割は特に中心的で、UEの最初のNAS(Registration Request)がN1として送出され、gNBがN2の Initial UE Message に載せてAMFへ届けます。詳しい流れは Registration を参照してください。
主なMessage¶
N1を流れる代表的なNASメッセージです。
| メッセージ | サブレイヤ | 用途 |
|---|---|---|
| Registration Request / Accept / Complete | 5GMM | 登録手続き |
| Authentication Request / Response | 5GMM | 本人確認(チャレンジ・レスポンス) |
| Security Mode Command / Complete | 5GMM | NASセキュリティの起動 |
| Service Request | 5GMM | 接続の再確立 |
| PDU Session Establishment Request | 5GSM | セッション確立要求 |
各メッセージの詳細は Message辞典 を参照してください。
Packet Analysis (Wireshark)¶
N1(NAS)はキャプチャ上に単独では現れず、NGAP(N2)パケット内のNAS-PDUとしてデコードされます。
| 目的 | Display Filter |
|---|---|
| NAS 5GS メッセージを抽出 | nas-5gs |
| 登録要求だけを抽出 | nas-5gs.mm.message_type == 0x41(Registration Request。0x41 は確定, TS 24.501 Table 9.7.1) |
| NGAP経由で見る | ngap && nas-5gs |
Decodeの見どころ:
- WiresharkはNGAPの
NAS-PDUフィールドを自動でnas-5gsとして二段デコードします。「NGAPの中にNASが入れ子」という構造を意識して見ると理解が進みます。 - Security Mode Command以降のNASは暗号化され、中身が見えなくなる点も確認できます(完全性保護のMACは付与)。
- 厳密には、Security Mode Command 自身は完全性保護のみで暗号化されません(integrity protected but not ciphered)。暗号化が有効になるのは、DL方向はSecurity Mode Command直後のメッセージから、UL方向はSecurity Mode Complete以降です(TS 33.501 §6 / TS 24.501 §4.4)。
EPCとの比較¶
- 4Gでは: NAS は UE ⇔ MME 間で終端し、EMM(モビリティ管理)とESM(セッション管理)に分かれていました(TS 24.301)。運搬はS1AP(S1-MME)の NAS-PDU。
- 5Gでは: NAS は UE ⇔ AMF で終端し、5GMM / 5GSM に再編されました(TS 24.501)。運搬はNGAP(N2)の NAS-PDU。
| 4G (EPC) | 5G (5GC) |
|---|---|
| NAS(UE⇔MME, TS 24.301) | NAS(UE⇔AMF, TS 24.501) |
| EMM / ESM | 5GMM / 5GSM |
| S1AP が NAS-PDU を運搬 | NGAP(N2) が NAS-PDU を運搬 |
3GPP Specification¶
- 3GPP TS 24.501 — 5GシステムのNASプロトコル(5GMM / 5GSM)。個別章番号は要確認
- 3GPP TS 23.501 §4 — システムアーキテクチャと参照点(N1の定義)
- 3GPP TS 33.501 — NASセキュリティ(暗号化・完全性保護)。個別章番号は要確認
Summary¶
- N1は UE ⇔ AMF を結ぶ論理インターフェースで、ProtocolはNAS。
- NASは 5GMM(モビリティ管理) と 5GSM(セッション管理) の2サブレイヤ。
- N1は独自リンクを持たず、UE⇔gNBは無線、gNB⇔AMFはN2(NGAP)のNAS-PDUに相乗りする。
- NASセキュリティ(暗号化・完全性保護)はUE⇔AMFで終端。
- 4GのNAS(UE⇔MME, TS 24.301)に相当し、5Gでは5GMM/5GSMに再編。
Next Step¶
- N2 — N1を運搬する下位インターフェース(NGAP/SCTP)
- AMF — N1を終端するNF
- Registration — N1が活躍する手続き
- Message辞典 / Interface辞典 — 用語の確認