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モバイルネットワーク概要(LTE/4Gまで)

難易度: 初級 / 想定学習時間: 25分 / 前提: なし(ここから読み始められます)

学習目標

この章を読み終えると、次のことができるようになります。

  • モバイルネットワークが固定網と何が違うのか(移動・無線・加入者管理)を説明できる
  • 2G → 3G → 4G LTE への流れを大づかみに説明できる
  • LTE/EPCの主要な登場人物(UE, eNB, MME, S-GW, P-GW, HSS)とそれぞれの役割を説明できる
  • 制御プレーン(C-Plane)ユーザプレーン(U-Plane) を分けて考える理由を説明できる
  • EPSベアラ が「端末から外部網までのデータの通り道」だとイメージできる
  • これらが 5GC を学ぶときの「4Gの地図」になることを理解できる

前提知識

特別な前提はありません。ノード・リンク・アドレス・レイヤといった通信ネットワークの基本用語に触れたことがあると理解が早まりますが、本章は初心者向けに書いているので未経験でもそのまま読み進められます。

この章で学べること

  • Why — なぜモバイルネットワークは固定網より複雑なのか
  • Overview — LTE/EPC の全体像を1枚で掴む
  • Basic Concept — 「引っ越しし続ける利用者に手紙を届ける」たとえ
  • 世代の流れ — 2G / 3G / 4G LTE を俯瞰する(深入りしない)
  • LTE/EPCの登場人物 — eNB / MME / S-GW / P-GW / HSS の役割
  • C-Plane と U-Plane の分離 — なぜ制御とデータを分けるのか
  • EPSベアラ — データの通り道という考え方(軽く)
  • 5GCへの橋渡し — 次章で 5GC がこれをどう作り替えたか

Why — なぜモバイルネットワークは特別なのか

固定電話やオフィスのLANでは、機器はケーブルで一箇所に固定されています。宛先も配線も変わりません。ところがモバイルネットワークでは、利用者が 歩き・電車・車で動き回りながら通信し続けます。ここに固定網には無い3つの難しさが生まれます。

  • 移動体管理(モビリティ) — 利用者が今どのエリアにいるのか、通信中に別の基地局へ移っていないかを、網が常に把握し続けなければならない
  • 無線(ラジオ) — 最後の区間が電波であり、電波は弱くなったり干渉を受けたりする。有限で貴重な電波資源を多数の利用者で分け合う必要がある
  • 加入者管理・認証 — 「その端末(利用者)は本当に契約者本人か」を確認し、契約内容(使える速度・サービス)に応じて扱いを変える必要がある

固定網が「動かない相手に届ける」問題なら、モバイル網は 「引っ越しし続ける相手に、本人確認しながら、限られた電波で届ける」 問題です。この3点を解くために、モバイルネットワークには専用のノードとルールが用意されています。

Overview — 概要

4G(LTE)のネットワークは、大きく2つの部分に分かれます。

  • 無線アクセス網(E-UTRAN) — 端末と電波でつながる部分。基地局 eNB が担当します
  • コア網(EPC: Evolved Packet Core) — eNB の先にある「頭脳と交通整理」の部分。移動体管理・認証・データ転送を担当します

EPC の中では役割が明確に分かれています。制御信号(誰がどこにいる/通信を許可するか等)を扱うノードと、利用者データ(Webやアプリの中身)を運ぶノードが別々です。前者を 制御プレーン(C-Plane)、後者を ユーザプレーン(U-Plane) と呼び、この分離がLTE以降のアーキテクチャの背骨になっています。

主要な登場人物は次の6つです。UE(端末)、eNB(基地局)、MME(移動体管理・認証の制御役)、S-GW / P-GW(データを運ぶ関門)、HSS(加入者データベース)。それぞれの役割は後述します。

Basic Concept — 初心者向け説明

「引っ越しし続ける利用者」に手紙を届ける

通信ネットワークはよく郵便にたとえられます。モバイルネットワークは、その郵便を 「宛先の人が常に引っ越し続けている」 状況で成立させる仕組みだと考えると分かりやすいです。

  • 利用者(UE)は電車で移動しながら手紙(データ)を受け取りたい
  • 各地域には受け渡し窓口(eNB=基地局)があり、利用者は一番近い窓口とやり取りする
  • 「今この人はどの窓口の近くにいるか」を追跡する管理係が MME です
  • 手紙そのものを外の世界(インターネット)と行き来させる関門が S-GW / P-GW です
  • 「この人は正規の契約者か、どんなサービスを使えるか」を記した名簿が HSS です

利用者が窓口Aのエリアから窓口Bのエリアへ移っても(ハンドオーバ)、管理係が居場所を更新し、関門はデータの流れを新しい窓口へつなぎ替えます。だから通信が途切れずに続くのです。

役割の早見表

登場人物 正式名 役割(ざっくり) たとえ
UE User Equipment 端末(スマホ等) 手紙を受け取る利用者本人
eNB evolved Node B 基地局(無線区間を担当) 地域の受け渡し窓口
MME Mobility Management Entity 移動体管理・認証の制御役 居場所を追う管理係
S-GW Serving Gateway 利用者データの中継関門 地域を束ねる集配所
P-GW PDN Gateway 外部網(インターネット)への出口 外の世界への玄関口
HSS Home Subscriber Server 加入者データベース 契約者名簿

世代の流れ — 2G / 3G / 4G LTE を俯瞰する

モバイルネットワークは世代を追うごとに「音声中心」から「データ中心」へ、そして「回線交換」から「パケット交換」へと移ってきました。細部には深入りせず、大きな流れだけ掴みましょう。

世代 主な用途 交換方式の特徴 ざっくり一言
2G 音声・SMS 回線交換が中心 「携帯で話す」を実現した世代
3G 音声+データ 回線交換とパケット交換が併存 モバイルインターネットの入り口
4G(LTE) データ中心(音声もパケット化) オールIP/パケット交換 「スマホでネット」を当たり前にした世代

ポイントは、4G(LTE)で音声も含めてすべてをIPパケットで運ぶ「オールIP」化が徹底された ことです。従来の電話網が持っていた回線交換の仕組みをコアから外し、パケット交換に一本化したコアが EPC です。音声通話もパケット化され、これは VoLTE(Voice over LTE)として提供されます。

「LTE」と「EPC」の呼び分け

厳密には、LTE は無線アクセス(E-UTRAN)側の技術の呼び名で、EPC はその先のコア網を指します。ただし日常的には「LTE」で 4G システム全体(無線+コア)を指すことも多く、両方を合わせた 4G システムは EPS(Evolved Packet System)と呼ばれます。本章では文脈に応じて使い分けます。

LTE/EPCの登場人物と役割

ここからは各ノードをもう少し具体的に見ます。ただし細かなプロトコル名やメッセージは後続章・辞典に委ね、「何をする役か」に集中します。

eNB — 基地局(無線区間を担当)

eNB(evolved Node B)は、UE と電波でつながる基地局です。無線区間のスケジューリング(限られた電波資源をどの端末にいつ割り当てるか)や、隣の eNB への ハンドオーバ の制御を担当します。eNB は無線を扱う唯一のノードで、その先のコア網(EPC)とは有線でつながります。

MME — 移動体管理と認証の制御役(C-Plane)

MME(Mobility Management Entity)は EPC の 制御プレーンの中心 です。主な役割は次の通りです。

  • 移動体管理 — UE が今どのエリア(トラッキングエリア)にいるかを把握し、待受け中の端末を呼び出す(ページング)
  • セッション管理の制御 — UE が通信するための「通り道(ベアラ)」を張る・解放する指示を出す
  • 認証の制御 — HSS と連携して、UE が正規の契約者かを確認する手続きを進める

重要なのは、MME は 制御信号だけを扱い、利用者データそのものは通らない 点です。データは後述の S-GW / P-GW を通ります。

S-GW / P-GW — 利用者データを運ぶ関門(U-Plane)

S-GW(Serving Gateway)と P-GW(PDN Gateway)は、利用者データ(ユーザプレーン)を運ぶノードです。

  • S-GW — eNB 側とコア側の間でデータを中継する集配所。UE が eNB 間を移動しても、データ経路の「アンカー(つなぎ替えの基点)」として機能します
  • P-GW — 外部のパケットデータ網(PDN、たとえばインターネット)への 出口 です。UE への IP アドレス割り当てや、契約に応じた通信制御(課金・QoS の適用など)を担当します

利用者のデータは「UE → eNB → S-GW → P-GW → インターネット」という経路で流れます。MME はこの流れの外にいて、経路を「張れ/外せ」と指示するだけ、という関係を押さえてください。

HSS — 加入者データベース

HSS(Home Subscriber Server)は、契約者(加入者)の情報を集中管理するデータベースです。各 UE の契約情報、認証に使う鍵(セキュリティ情報)、利用できるサービスなどを保持し、MME からの問い合わせに答えます。認証や在圏管理の「正解の元」がここにあります。

graph LR
    UE["UE
(端末)"] eNB["eNB
(基地局)"] MME["MME
(移動体管理・認証)"] SGW["S-GW
(データ中継)"] PGW["P-GW
(外部網への出口)"] HSS["HSS
(加入者DB)"] PDN["インターネット
(PDN)"] UE -. 無線 .-> eNB eNB -->|制御| MME eNB -->|データ| SGW SGW -->|データ| PGW PGW -->|データ| PDN MME <-->|認証・加入者情報| HSS MME -->|制御| SGW classDef cplane fill:#e3f2fd,stroke:#1565c0; classDef uplane fill:#e8f5e9,stroke:#2e7d32; class MME,HSS cplane; class SGW,PGW uplane;

図の読み方: 青が 制御プレーン(C-Plane)、緑が ユーザプレーン(U-Plane) に関わるノードです。実線がコア網内の有線区間、点線が無線区間を表します。MME はデータ経路(緑)に載らず、脇から制御していることに注目してください。

制御プレーンとユーザプレーンの分離

LTE/EPC の設計思想でもっとも重要なのが、制御プレーン(C-Plane)ユーザプレーン(U-Plane) の分離です。

  • 制御プレーン(C-Plane) — 「誰がどこにいるか」「通信を許可するか」「通り道を張るか」といった お膳立ての信号。MME・HSS が中心
  • ユーザプレーン(U-Plane) — Web・動画・アプリの中身そのものである 利用者データ。S-GW・P-GW が運ぶ

なぜ分けるのか。理由は主に3つあります。

  1. 役割が違うから最適化も違う — 制御信号は「頻度は低いが判断が複雑」、利用者データは「単純だが大量高速」。別のノードに分ければ、それぞれに合った設計・増強ができます
  2. 拡張しやすい(スケーラビリティ) — データ量が増えたらデータ側(U-Plane)のノードだけ増やせばよく、制御側を巻き込まずに済みます
  3. 柔軟な配置 — データの出口(P-GW)を利用者の近くに置いて遅延を減らす、といった配置の工夫がしやすくなります

この分離が 5GC で徹底される

C-Plane と U-Plane を分ける考え方(CUPS: Control and User Plane Separation)は LTE の後期に強化され、5GC ではさらに徹底されます。5GC では制御プレーンが多数の Network Function(NF)に細かく分かれ、ユーザプレーンは UPF が担います。「制御とデータを分ける」というLTEで学んだ発想が、そのまま 5GC の土台になります。

EPSベアラ — データの通り道(軽く)

利用者データが「UE → eNB → S-GW → P-GW → インターネット」と流れるとき、その経路には 通信品質(QoS)の約束 が結びついています。この「端末から外部網までの、決められた品質を持ったデータの通り道」を EPSベアラ(EPS bearer)と呼びます。

  • UE が LTE に接続すると、まず標準的な通り道(デフォルトベアラ)が1本張られます
  • 音声通話やビデオなど、より厳しい品質が必要な通信には、専用の通り道(専用ベアラ)を追加で張れます

ここでは「ベアラ=品質の約束付きのデータの通り道」というイメージだけ持てれば十分です。ベアラの詳細な種類や QoS パラメータは後続章・辞典に譲ります。5GC ではこのベアラの考え方が PDU セッションQoS フロー という形に作り替えられます。

3GPP Specification

LTE/EPC のアーキテクチャは 3GPP の仕様群で定義されています。ここでは代表的なものを概念レベルで挙げます。

  • TS 23.401 — EPS(GERAN/UTRAN/E-UTRAN アクセスに対する EPC)の全体アーキテクチャを定める中核仕様。EPC のノード構成・ベアラ・手続きの基礎はここに基づきます(本章で扱う節番号までの特定は省略します。正確な節は原典を参照してください)

節番号は原典で確認を

本章は概念理解を目的としているため、個々の記述に対する仕様の節番号までは示しません。断定的に「TS xx.xxx の第 y 節」と引用する必要がある場合は、必ず 3GPP の原典で節番号を確認してください。本教科書は推測での仕様引用を行いません。

FAQ

Q. MME は利用者のデータ(Webの中身など)を見ているのですか? A. いいえ。MME は制御プレーンのノードで、「通り道を張れ/外せ」といった制御信号だけ を扱います。利用者データそのものは S-GW / P-GW(ユーザプレーン)を通り、MME には流れません。

Q. S-GW と P-GW は何が違うのですか? A. S-GW は eNB 側とコア側の間でデータを中継し、端末が移動しても経路のアンカーとなる「集配所」です。P-GW は外部網(インターネット等)への「出口」で、IP アドレス割り当てや契約に応じた通信制御を担当します。データは S-GW を通ってから P-GW を経て外へ出ます。

Q. LTE と 4G と EPC と EPS は、どう違うのですか? A. ざっくり言うと、LTE は無線アクセス側の技術、EPC はコア網、EPS(= LTE + EPC)は 4G システム全体を指す用語です。日常会話では「LTE」「4G」がシステム全体を指すこともあります。

Q. 4G の音声通話はどうやって実現しているのですか? A. LTE はデータ(パケット)を運ぶネットワークなので、音声もパケット化して運びます。これが VoLTE(Voice over LTE)です。回線交換の電話網に頼らず、IP パケットとして音声を届けます。

Q. この章の内容は 3GPP 仕様の丸写しですか? A. いいえ。LTE/EPC の一般に確立した役割分担を初心者向けに整理したものです。仕様の節番号までの厳密な引用が必要な場合は原典を確認してください。

Summary

  • モバイルネットワークは固定網と違い、移動体管理・無線・加入者管理/認証 という固有の課題を解く必要がある
  • 世代は 2G(音声)→ 3G(音声+データ)→ 4G LTE(オールIP・パケット交換) と進み、4G で音声も含めた IP 化が徹底された
  • 4G のコア EPC の主役は eNB(基地局)/ MME(移動体管理・認証の制御)/ S-GW・P-GW(データ転送)/ HSS(加入者DB)
  • 制御プレーン(C-Plane)ユーザプレーン(U-Plane) を分けるのが LTE 設計の背骨で、この発想は 5GC で徹底される
  • EPSベアラ は「品質の約束付きのデータの通り道」であり、5GC では PDU セッション/QoS フローへ作り替えられる

Practice — 理解度チェック・演習

理解度チェック

Q1. モバイルネットワークが固定網に比べて特別に難しい3つの理由を挙げてください。

移動体管理(利用者が動き回るので居場所を追い続ける必要がある)/無線(最後の区間が電波で、有限の資源を分け合う)/加入者管理・認証(本人確認と契約に応じた扱い) の3つです。

Q2. MME・S-GW・P-GW のうち、利用者データ(ユーザプレーン)が通るのはどれですか?

S-GW と P-GW です。MME は制御プレーンのノードで、利用者データは通りません。MME は「通り道を張れ/外せ」と指示するだけです。

Q3. 制御プレーンとユーザプレーンを分ける利点を1つ挙げてください。

たとえば、データ量が増えたときにユーザプレーン側のノードだけ増強でき、制御側を巻き込まずに拡張できる(スケーラビリティ)ことです。役割ごとの最適化や柔軟な配置も利点です。

Q4. HSS の役割を一言で述べてください。

契約者(加入者)の契約情報・認証用の鍵・利用可能サービスなどを集中管理する 加入者データベース です。MME からの問い合わせに答え、認証や在圏管理の「正解の元」になります。

演習

  • 自分のスマホで動画を見るとき、データが通るノードを「UE → ? → ? → ? → インターネット」の形で埋めてみましょう(答え: UE → eNB → S-GW → P-GW → インターネット)。
  • 「引っ越しし続ける利用者に手紙を届ける」たとえを使って、家族に MME の役割を1分で説明してみましょう。
  • 制御プレーンとユーザプレーンの分離が、なぜ 5GC で重要になるのかを、自分の言葉でメモしてみましょう(次章で答え合わせします)。

Next Step

  • 5GC概要とSBA — 次章。5GC が EPC をどう作り替えたか(SBA・Network Function)を学ぶ
  • Network Function 総論 — 5GC の登場人物(NF)を体系的に学ぶ
  • Interface / Protocol 総論 — ノード間をつなぐ参照点とプロトコルを学ぶ
  • NF辞典 — MME→AMF+SMF など、EPC と 5GC のノード対応を辞典で確認する