Policy — 5GCのポリシー制御(PCF)¶
学習目標¶
この章を読み終えると、次のことができるようになります。
- PCF(Policy Control Function) が5GCのポリシー制御の中心であり、QoS・課金・トラフィック・アクセス&モビリティ・URSPを決めることを説明できる
- PCFの出力が PCCルール(Policy and Charging Control Rule) であり、N7 で SMF へ配布されることを図示できる
- AF(Application Function) が N5 でPCFへQoS要求を出し、PCCルールが生成される流れを説明できる
- URSP(UE Route Selection Policy) が「どのアプリをどのスライス/DNN/PDU Sessionに乗せるか」をUEへ配る仕組みであることを説明できる
- 4Gの PCRF/Gx から5Gのポリシー制御への進化を説明できる
前提知識¶
- PDU Session(PDUセッション確立) — ポリシーは主にPDU Session単位で適用される
- QoS(5G QoSモデル) — PCCルールはQoS Flow(5QI/QoS)を決める。5QIやQoS Flowの一般説明はこちら
- 補助: PCF(ポリシーNFの詳細) / SMF(PCCルールの適用先) / N7(PCF⇔SMFの参照点詳細)
この章の焦点
PCFというNF自体の詳細は PCFページ、N7参照点のメッセージ詳細は N7ページ、N5は N5ページ、N36は N36ページ にあります。この章はそれらを踏まえ、「ポリシー制御という手続きが5GC全体でどう流れるか」 に焦点を当てます。QoS/5QIの一般説明は QoSページ に委譲します。
Why — なぜポリシー制御が必要か¶
通信事業者は、すべてのトラフィックを一律に扱うわけにはいきません。次のような判断が要ります。
- 音声通話には遅延の少ない品質を、動画には広い帯域を、バックグラウンド更新には最低限を(QoS制御)
- どのトラフィックをどう課金するか(課金制御:Rating Group割当)
- 契約に応じて特定サービスを遮断・帯域制限する(トラフィック制御:ゲーティング/帯域制限)
- どのアプリをどのスライス/接続先に乗せるか(URSP)
これらを 加入者ごと・サービスごと に一貫して決める役割が必要です。5GCでは PCF(Policy Control Function) がこの中心を担います。
例え話: PCFは「交通管制のルールメーカー」です。どの車(トラフィック)にどの車線(QoS/スライス)を使わせ、どこで料金を取り(課金)、どこを通行止めにするか(ゲート)を、加入者の契約(ポリシーデータ)とアプリの要求(AF要求)を見て決め、現場の警官(SMF)へ指示書(PCCルール)を渡します。
What — PCFが決めること・PCCルール・URSP¶
PCFが制御する領域は大きく次の通りです。
| 制御領域 | 何を決めるか | 適用先 |
|---|---|---|
| QoS制御 | どのトラフィックにどの5QI/QoSを与えるか | SMF → QoS Flow確立 |
| 課金制御 | どのトラフィックをどのRating Groupで課金するか | SMF → UPFの計量 |
| トラフィック制御 | ゲーティング(通す/止める)、帯域制限 | SMF → UPFのゲート設定 |
| アクセス&モビリティ制御 | RFSP等(優先周波数選択など) | AMF |
| URSP | どのアプリをどのスライス/DNN/PDU Sessionに乗せるか | UE |
QoS・課金・トラフィック制御の出力は、まとめて PCCルール(Policy and Charging Control Rule) という形になります。1つのPCCルールに「対象トラフィック(フロー記述)+与えるQoS(5QI)+Rating Group+ゲート/帯域」が含まれ、PCFがN7でSMFへ配布します。SMFはこれを QoS Flow確立 や UPFの計量/ゲート設定 に反映します。
PCCルール(PCC Rule)とは
Policy and Charging Control Rule。PCFが生成しSMFへ配る「1つのトラフィックをどう扱うか」の指示書です。フロー識別(何のトラフィックか)と、それに与える QoS(5QI)・課金(Rating Group)・ゲート/帯域を1セットで持ちます。定義は TS 23.503。
URSP(UE Route Selection Policy)¶
URSP は、UE側の「トラフィックの振り分けルール」です。UE上の各アプリのトラフィックを どのスライス(S-NSSAI)/DNN/PDU Session に乗せるか を決めます。PCFが加入者・事業者ポリシーからURSPを生成し、UEへ配布します(TS 23.503)。
これにより、例えば「業務アプリはスライスA、動画はスライスB」といった振り分けをUE自身が行えます。スライスの一般説明は Network Slicing を参照してください。
PCCルールとURSPの向きの違い
PCCルールはネットワーク側(SMF/UPF)への指示(N7で下り)。URSPはUE側への指示(UEへ配布)。どちらもPCFが生成しますが、効かせる相手が異なります。
下の図は、同じ PCF が生成する2種のポリシーが逆向きに配られる様子を示します。PCCルールはネットワーク側(SMF→UPF/NG-RAN)へ、URSPは端末側(UE)へ向かいます。
flowchart LR
subgraph NWside["ネットワーク側で効く"]
SMF["SMF/UPF/NG-RAN
(QoS/課金/ゲートを実施)"]
end
PCF["PCF
ポリシー生成の中心"]
subgraph UEside["UE側で効く"]
UE["UE
(アプリ→スライス/DNN/
PDU Session の振り分け)"]
end
PCF -->|"PCCルール(N7で下り)
何を・どのQoS/課金/ゲートで扱うか"| SMF
PCF -->|"URSP(UEへ配布)
どのアプリをどこに乗せるか"| UE
classDef pcf fill:#fde,stroke:#c69,stroke-width:2px;
classDef nw fill:#eef,stroke:#66a;
classDef ue fill:#efe,stroke:#3a3;
class PCF pcf;
class SMF nw;
class UE ue;
図の読み方
中央の PCF が2種のポリシーを生成し、左右逆向きに配ります。左の PCCルールは「そのトラフィックをネットワーク側でどう扱うか(QoS/課金/ゲート)」の指示で、N7 で SMF へ下り、SMF が UPF/NG-RAN に反映します。右の URSPは「UE 上のどのアプリを、どのスライス/DNN/PDU Session に乗せるか」の指示で、UE 自身が使います。同じ PCF 由来でも効かせる相手(ネットワーク側 vs UE 側)が逆である点が要点です。
How — ポリシーはどこで効くか(Architecture)¶
PCFは、加入者ポリシーデータをUDRから取得(N36経由)し、AFからのサービス要求をN5で受け、SMFへPCCルールをN7で配布します。Session Bindingの情報(どのPCFがどのPDU Sessionを担当するか)は BSF が保持します。
graph LR
AF[AF
例: P-CSCF] -->|N5 QoS要求| PCF[PCF
ポリシー制御中心]
UDR[UDR
ポリシーデータ] -->|N36| PCF
PCF -->|N7 PCCルール| SMF[SMF]
PCF -.->|Session Binding登録| BSF[BSF]
PCF -->|URSP| UE[UE]
SMF -->|N4 ゲート/計量| UPF[UPF]
SMF -->|QoS Flow確立| RAN[NG-RAN]
各Network Functionの役割¶
| NF | ポリシー制御での役割 |
|---|---|
| PCF | ポリシー制御の中心。加入者データとAF要求からPCCルール/URSPを生成。詳細は PCF |
| SMF | PCCルールの主な適用先。QoS Flowを確立し、UPFへゲート/計量ルールを設定 |
| AF | アプリ側からQoS等を要求(N5)。例: IMSの P-CSCF |
| UDR | 加入者ポリシーデータの格納庫。PCFがN36で取得。詳細は UDR |
| BSF | Session Binding情報を保持(どのPCFが担当か)。詳細は BSF |
主なInterface¶
| Interface | 区間 | 役割 |
|---|---|---|
| N7 (Npcf) | PCF ⇔ SMF | PCCルール配布。Npcf_SMPolicyControl(TS 29.512)。詳細は N7 |
| N5 (Npcf) | AF ⇔ PCF | AF起点のポリシー要求。Npcf_PolicyAuthorization。詳細は N5 |
| N36 (Nudr) | PCF ⇔ UDR | 加入者ポリシーデータの取得。詳細は N36 |
| N15 (Npcf) | AMF ⇔ PCF | アクセス&モビリティポリシー(RFSP等) |
外部AFはNEF(N33)経由
信頼された内部AF(例: IMSのP-CSCF)はN5でPCFへ直接要求できますが、外部/サードパーティのAFは NEF(N33)経由でポリシー要求を出します。境界の露出を制御するためです。
Procedure — ポリシー適用のCall Flow¶
(A) PDU Session確立時のポリシー適用(SMF起点)¶
PDU Session確立の裏で、SMFがPCFへポリシーを要求し、PCCルールを受け取る流れです。
sequenceDiagram
participant SMF
participant PCF
participant UDR
participant UPF
Note over SMF,PCF: PDU Session確立の一部
SMF->>PCF: N7 Npcf_SMPolicyControl_Create
(加入者/DNN/S-NSSAI等を提示)
PCF->>UDR: N36 ポリシーデータ取得
UDR-->>PCF: 加入者ポリシー
PCF->>PCF: PCCルール生成
(5QI/Rating Group/ゲート)
PCF-->>SMF: N7 PCCルール返却
SMF->>SMF: QoS Flow決定
SMF->>UPF: N4 ゲート/計量(URR)設定
Note over SMF: QoS Flow確立へ反映
(B) AF起点のQoS要求(N5)¶
AF(例: IMSのP-CSCF)が、音声など特定サービスのQoSをネットワークへ要求する流れです。これは VoNR の音声QoS確立の裏側でもあります。
sequenceDiagram
participant AF
participant PCF
participant SMF
participant UPF
AF->>PCF: N5 Npcf_PolicyAuthorization_Create
(メディア情報・要求QoS)
PCF->>PCF: PCCルール生成/更新
PCF->>SMF: N7 Npcf_SMPolicyControl_Update
(PCCルール配布)
SMF->>SMF: 専用QoS Flow確立
SMF->>UPF: N4 ゲート/計量設定
SMF-->>PCF: 応答
PCF-->>AF: N5 応答(承認)
Signal Flow(主要メッセージ)¶
| # | メッセージ | 区間 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 1 | Npcf_SMPolicyControl_Create | SMF→PCF | PDU Session確立時のポリシー要求 |
| 2 | Nudr データ取得 | PCF→UDR | 加入者ポリシーデータ取得(N36) |
| 3 | (応答) PCCルール | PCF→SMF | 生成したPCCルールを返却 |
| 4 | Npcf_PolicyAuthorization_Create | AF→PCF | AF起点のQoS要求(N5) |
| 5 | Npcf_SMPolicyControl_Update | PCF→SMF | AF要求を反映したPCCルール配布 |
| 6 | (URSP配布) | PCF→UE | UEへのルート選択ポリシー配布 |
AF要求がそのまま通るとは限らない
AFのQoS要求は「要求」であり、PCFが加入者ポリシー・事業者ポリシーに照らして承認/変更/拒否します。要求されたQoSを常に与えるわけではない点に注意(実装・ポリシー依存)。
EPC(4G)との比較¶
| 項目 | 4G EPC | 5GC |
|---|---|---|
| ポリシー制御NF | PCRF(Policy and Charging Rules Function) | PCF |
| SMF/PGWへの配布 | Gx参照点 | N7(Npcf_SMPolicyControl) |
| AF起点QoS要求 | Rx参照点 | N5(Npcf_PolicyAuthorization) |
| 加入者データ取得 | SPR/UDR | UDR(N36) |
| 出力ルール | PCCルール | PCCルール(枠組みは継承) |
| プロトコル | Diameter(Gx/Rx) | SBI(HTTP/2, Npcf) |
| UE向けルート選択 | (限定的:ANDSF等) | URSP |
5Gの変化は、PCRF→PCFへ名称/構造が変わりSBI(HTTP/2)化したこと、URSPでUE側のトラフィック振り分けを制御できるようになったことです。PCCルールという枠組み自体は4Gから継承されています。
Release差分¶
| Release | 変更点 |
|---|---|
| Rel-15 | PCF導入。PCCフレームワーク(TS 23.503)。Npcf_SMPolicyControl(TS 29.512)、URSP |
| Rel-16以降 | スライス関連ポリシー、URSPの拡充、AF影響(Traffic Steering)等の強化 |
節番号の粒度
PCF/PCCの枠組みは TS 23.503、N7のNpcf_SMPolicyControlは TS 29.512、URSPは TS 23.503 で定義されます。これらのTS番号は確実ですが、各TS内の細かい節番号は版により異なるため、精密な引用時は要確認。
Trouble Shooting¶
| 症状 | 疑う箇所 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| QoS Flowが期待通り確立しない | PCCルールの5QI/QoS | PCFが返したPCCルールの5QI。QoS一般は QoS 参照 |
| AFのQoS要求が反映されない | N5 PolicyAuthorization | PCFがAF要求を承認したか、N7でSMFへ配布されたか |
| 特定アプリが誤ったスライスに乗る | URSP | UEへ配布されたURSPの振り分けルール |
| ポリシーが加入者ごとに効かない | UDRのポリシーデータ | PCFがN36で正しい加入者データを取得できているか |
| 課金分類が誤る | PCCルールのRating Group | Rating Group割当。課金詳細は Charging 参照 |
3GPP Specification¶
| 仕様 | 内容 |
|---|---|
| TS 23.503 | Policy and charging control framework(PCC枠組み、URSP) |
| TS 29.512 | Session Management Policy Control Service(N7 Npcf_SMPolicyControl) |
| TS 23.501 | System architecture(5QI標準値定義は §5.7.4) |
5QIの断定範囲
標準5QIのうち断定できるのは 5QI=1(会話音声, GBR) と 5QI=5(IMSシグナリング, Non-GBR)(TS 23.501 §5.7.4)です。その他の5QI値は本章では要確認扱いとします。詳細は QoS を参照。
FAQ¶
Q. PCFとSMFはどう役割分担しますか?
PCFは「何をすべきか(ポリシー/PCCルール)」を決め、SMFは「それをどう実現するか(QoS Flow確立・UPF設定)」を担います。PCFが判断者、SMFが実行者です。
Q. AFのQoS要求は必ず通りますか?
いいえ。AFの要求はあくまで要求で、PCFが加入者ポリシー・事業者ポリシーに照らして承認/変更/拒否します。承認された場合のみPCCルールとしてSMFへ配布されます。
Q. URSPとPCCルールの違いは何ですか?
どちらもPCFが生成しますが、URSPはUE側の振り分けルール(どのアプリをどのスライス/PDU Sessionに乗せるか)、PCCルールはネットワーク側(SMF/UPF)への指示(QoS/課金/ゲート)です。効かせる相手が異なります。
Summary¶
- PCF は5GCのポリシー制御の中心。QoS・課金・トラフィック・アクセス&モビリティ・URSPを決める
- 出力は PCCルール(フロー+5QI+Rating Group+ゲート/帯域)。N7(Npcf_SMPolicyControl) でSMFへ配布
- AF は N5(Npcf_PolicyAuthorization) でQoS要求→PCFがPCCルール生成→N7でSMF。VoNRの音声QoSの裏側
- URSP はUEへ配るルート選択ポリシー(どのアプリをどのスライス/DNN/PDU Sessionに乗せるか)
- PCFは加入者ポリシーを UDR(N36)から取得、Session Binding情報は BSF が保持
- 4Gの PCRF/Gx/Rx から、SBI化・URSP追加へ進化
理解度チェック¶
Q1. PCFの出力である「PCCルール」には何が含まれ、どのInterfaceで誰へ配布されますか?
PCCルールには対象トラフィック(フロー記述)+与えるQoS(5QI)+Rating Group+ゲート/帯域が1セットで含まれる。N7(Npcf_SMPolicyControl) で SMF へ配布され、SMFがQoS Flow確立やUPFの計量/ゲート設定に反映する。
Q2. AF起点のQoS要求はどのInterfaceを使い、その後どうPCCルールへ繋がりますか?
AFは N5(Npcf_PolicyAuthorization) でPCFへQoS要求を出す。PCFがそれを承認するとPCCルールを生成/更新し、N7 でSMFへ配布して専用QoS Flowを確立させる。これはVoNRの音声QoS確立の裏側でもある。
Q3. URSPとは何を決める仕組みで、PCCルールとどう向きが異なりますか?
URSPは、UE上の各アプリのトラフィックをどのスライス/DNN/PDU Sessionに乗せるかをUEへ配るルール。PCCルールがネットワーク側(SMF/UPF)への下り指示なのに対し、URSPはUE側への指示で向きが異なる。どちらもPCFが生成する。
Next Step¶
- ポリシーと密接に連携するCharging(課金)へ
- ポリシーNFの詳細はPCF、参照点詳細はN7へ
- URSPが振り分ける先のNetwork Slicing(ネットワークスライシング)を学ぶ